「効率化」「改善」は危険ワード?ツールドリブンの罠
TABI LABO 久志 尚太郎 氏

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2018-05-07 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

昨年話題になったヤマハ発動機のキャペーン「サウナとトリシティでととのった」に、クリエイティブディレクターとして携わられた株式会社TABI LABO代表取締役久志尚太郎氏が登場。「デジタル業界と他業種の異種格闘技戦を!」と語る久志氏にその真意を伺いました。

—久志さんはデジタル系のビジネスではよく耳にする「効率化」や「改善」というキーワードに対して、危機感をお持ちと伺いました。

ツールドリブンの話が多すぎる、という危機感です。「ABテストやりましょう」「ツールを入れて効率の改善をしましょう」といった提案はみなさんよくお話しされていますよね。一方で、何を作るのかを考えることが少ないのではないでしょうか。クリエイティブやアートの話がもっとしたいです。

—アートの話、とは一体どのようなお話でしょうか。

アートというのは無自覚なものを自覚的にする行為だと思っています。自分たちでは気づいていないものを可視化するからこそ、気持ち悪いこともあったりする。しかし、それはマーケティングの本質なのではないでしょうか。チームラボの制作に資生堂が協賛するような事例もありますが、まだまだアートとマーケティングは遠い。ad:tech tokyoでもアート×テクノロジーについて語っていくシーンが増えたらいいですよね。アイディアの作り方を異種格闘技戦のように出し合えたらおもしろいんじゃないかな。さらに、音楽のジャンルでも今はマーケットの形がどんどん変わっていて。CDを売るビジネスからコミュニティ型ビジネスになりました。彼らのコンテンツ制作の方向性やコミュニケーションも当然そのマーケットに合わせて変化していますので、ミュージシャンとマーケターがもっと近づいていってもいいのではないかと。

—クリエイティブといえば、TABI LABOの皆さんはメディアであると同時にクリエイティブ専門チーム「TABI LABO BRAND STUDIO(ブランドスタジオ)」としてクライアントの課題に向き合っていらっしゃいますね。「メディアがタイアップ企画を実施する」ということと、「クリエティブチームとして向き合う」ということには違いはありますか。

BRAND STUDIOはクリエイティブからコンテンツ、企画そのもののキャンペーン設計から入り、スマートフォンを軸にした制作流通を行うチームです。クライアントや広告会社が計画したキャンペーン施策のなかの、さらに最後の部分の「露出メディア」としての関わるのとは大きく異なりますね。トータルプロモーションを垂直統合で行いますので、イベントやファン組織を作る施策まで計画していきます。例えば、長くお付き合いしているクラフトビールのブランド「BLUE MOON」の皆さんとは、ビールとのペアリングメニューを新進気鋭のシェフと開発してユーザーを招待したり、「BLUE MOON ACADEMY」と題した飲食店のスタッフ向けのワークショップを開催したりしました。施策の中でシェフのクリエイティビティに触れたこともとても刺激的でしたね。PVや配信フォーマットなど広告全体の中の一番最後の部分だけを扱うのは、もうどうでもよいのでは、とすら思います。

—テレビが広告の中心であった時代は許認可などのハードルの問題もありクライアント、広告会社、メディアの役割分担が明確で、ある種の分断もありました。デジタルの時代になったことでクライアントとメディアの関わり方が変わってきているということでしょうか。

今の日本の広告業界はいまだ企画、制作、流通それぞれに携わる人たちがバラバラになっていることが多いと感じます。インターネットを通じて誰もが直に発信できる時代にクライアントとメディアが顔を合わせることなく施策が進んでいってしまうんです。さらにメディア業への参入障壁も低くなっていますよね。その状況ではメディアも少し前までの「安価なコンテンツを大量生産してPVを獲得する」という手法では生き残れませんから、自分たちにしか作れないものをいかに作るのか常に考えていかなければいけません。プラットフォームになりたがるのではなく、もっと作ることにフォーカスを絞るべきです。

広告会社もメディアもクライアントももっとユーザーと直接つながっていかなければいけないでしょう。使い手ではなく、作り手になる。ツールの評価ばかりするのではなく、目線を変えていかなければいけないなと思います。広告はカルチャーの最先端であってほしいので、ad:tech tokyoもその一端を担ってくれる場になってほしいですね。

<プロフィール>
1984年生まれ、株式会社TABI LABO 代表取締役。中学卒業後、単身渡米。16歳の時に飛び級で高校を卒業後、起業。帰国後は19歳でDELLに入社、20歳で法人営業部のトップセールスマンに。21歳から23歳までの2年間は同社を退職し、世界25ヶ国をまわる。復職後は25歳でサービスセールス部門のマネージャーに就任。同社退職後、宮崎県でソーシャルビジネスに従事。2013年より東京に拠点を移し、2014年2月TABI LABO創業。クリエイティブディレクターとしてヤマハ発動機「サウナとトリシティでととのった」やUltra Japan「OFFICIAL AFTER MOVIE2016」を手掛ける。
2017年に社内組織BRAND STUDIO(ブランドスタジオ)を設立。

ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから

イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム  東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.archive.adtech-tokyo.com/ja/

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