カスタマイズされた情報の提供で目指す、「不安の解放」
ライオン 小和田 みどり 氏

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2018-05-07 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今、多くの企業でマーケティングや宣伝に関わる部門の組織改編が行われています。ライオン株式会社もそのひとつ。新たにコミュニケーションデザイン部長に就任された小和田みどり氏に組織改編の効果についてお話を伺いました。

—昨年10月に宣伝部からコミュニケーションデザイン部に名前が変更になったそうですね。今、統括されていらっしゃるこの部の役割とはどのようなものでしょうか。

コミュニケーションデザインの名の通り、コミュニケーション全体を設計し、実施、検証を行っています。メディアを管理する統括チームをはじめ、パッケージやCMといったクリエイティブデザイン室、ブランドごとに施策の立案・実施・検証を行うCX(コンシューマーエクスペリエンス)プランニング室、コーポレートサイトやオウンドメディア「Lidea」の運営とDMPを遂行するデジタルコミュニケーション開発室という4つのチームに分かれています。あらゆることを一手に引き受けている分、コミュニケーションに関わる全てを部内で動かせるので、意思の疎通がスムーズになったり、「このブランド側ではできないけどこっちのブランドでやりましょう!」といった進め方ができたりするのが強みです。メディアごとのクリエイティブも一気に相談ができるので、非常にいい流れができています。

—デジタルもマスも一気通貫でコミュニケーションを行なっていらっしゃるなかで感じる生活者の変化などはありますか。

よく言われていることですが、情報が溢れるほど流通するようになったことで、情報に対する生活者の興味関心度は低くなりました。あれもこれもと情報をとっていた時代から、自分の興味のあることにだけ情報収集、さらに生活者自らが発信を行う時代に変わっています。「何だろう?」と興味を持ってもらうための仕掛けもどんどん複雑になっていますので、言いたいことだけを伝えるコミュニケーションでは当然通用しません。製品の面からいっても、世の中に流通する商品全体の品質が高くなり、品質差も少なくなってきたので、「この商品と他の商品の違いとは」「これだけよくなりました」だけを伝えても聞いてもらえなくなりました。以前は店頭で商品の裏面の商品特徴などをじっくり読む人を見かけたのですが、今の生活者は日々忙しくなってしまい、そういう方も少なくなりました。商品もたくさんあって「あれこれ選ぶのは面倒」となり、今使っているものに大きな不満がないとブランドスイッチもおきづらくなっています。「どれを使っても一緒」といいながらどこかに選択基準があるんですよね。「なぜこの商品なのか」はまさしくインサイトに触れる部分なので難しいですが探っていきたい部分です。

—みなさんのようなメーカーの方々は対生活者のBtoCのビジネス、対販売店というBtoBのビジネス、ふたつの面を持っていると思います。販売店との関わり方も変わってきているのでしょうか。

ECでの購買が増えてきたことから、販売店のみなさんも以前のようなチラシで安さをアピールするという手法からの脱却を図っておられ、実際にデジタル活用の動きも出ています。最近のニュースでいうとマツモトキヨシとNTTドコモの2社が提携し、dポイントが使用可能になるサービスを始めました。両社がそれぞれに持つデータ基盤を活かして行動と販売に結びつけようということです。どの広告効果が販売に繋がっているのかを検証し始めている販売店もあります。私たちもうかうかできません。生活者のデータをしっかり分析し「これを買いたい!」と思った瞬間、またはタイムリーな情報で顕在化していないニーズを掘り起こし、店舗への誘導と購入を促進させる。コミュニケーションでそういう流れを作りたい、と思っています。

—デジタル化を通じて、複数の企業が手を取り合って生活者とコミュニケーションをする取り組みがますます増えるよう期待したいですね。その促進のために乗り越えることが必要な、業界の課題とお感じになるものがあれば教えてください。

フェイクニュースや薬事法に抵触するような記事などの問題はひとつ課題ですね。生活者に「またか」と思われてしまうとデジタルは信用ならないものだと捉えられてしまい、いい流れが止まります。制作体制の管理等はなかなか難しい部分もありますが、広告主、メディアも含めた業界全体として取り組んでいかなければいけないと思います。

あとは、デジタル化の流れは止まらないどころかますます加速していくので、雑誌の編集者やテレビ局のスポット営業の方などいわゆるマスしかやっていない人とデジタル側の人の交流がもっと盛んになるべきではないでしょうか。ad:techで語られる議論をマス側にいる人が聞いたらどう感じるんだろう、と気になります。広告主側もマス広告とデジタル広告の線引きをしないように、テレビとデジタルの共通指標の創出などを行なっている真っ最中です。

—自社ではこんなことをやってみたい、という希望は。

目指すのは1to1のコミュニケーションです。生活者それぞれの行動や興味を見て情報を提供するということは、人の手だけではできませんでした。しかし、デジタルの力によってそれも可能になる。例えば歯ブラシは人によって磨き方や力の入れ方が違い、歯の生え方も違います。その情報がわかっていれば「あなたにあった磨き方」を伝えられます。正しい磨き方ができているのかみなさん自信のない中でハミガキしているのを、カスタマイズした情報を提供することで不安から解放できるのではないか。早くそういうコミュニケーションを実現したいなと思っています。自社だけでできることでもないので、家電メーカーやスタートアップの方と組んでみるなどすれば、日用品のなかにもデジタル化が起きる可能性が広がっていくのではないでしょうか。

(聞き手:事務局 堀)

<プロフィール>
小和田 みどり
ライオン株式会社
コミュニケーションデザイン部長
・商品開発担当(ヘアメイク・ヘアケア)
・宣伝部(媒体担当)
・子会社立上げ
株式会社イシュア社長
・宣伝部長

ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから

イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム  東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.archive.adtech-tokyo.com/ja/

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