メディアがコマースに近づく理由
エブリー 吉田 大成 氏

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2018-05-28 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回は株式会社エブリー代表取締役吉田大成氏が登場。レシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」を筆頭に4つの動画メディアを展開し、デジタルクーポンの配布やスーパー店頭での動画放映などデジタルからリアルに人を動かす取り組みをするなかで感じている、今後のメディアとコマースの関係性について語っていただきました。

—電通が今年2月に発表した「2017年日本の広告費」によると、2017年の動画広告費は1,155億円、2018年には約1,600億円まで拡大すると予測されており、動画広告はもうだいぶ浸透してきた印象です。動画メディアを運営されているお立場として吉田さんはいつ頃からこの流れが加速したと感じますか。

私が「動画を見ている人が増えた」という実感を得たのは2014年末のことです。前職時代にYouTuberを起用したプロモーション施策に関わったのですが、計画時はweb動画に慣れ親しんでいるのは10代・20代だろうと思っていたんですね。それが実際に蓋を開けてみたら、30代や40代の人もその施策からの行動を起こしていた。自分のイメージとのギャップがあると感じたのが、この市場が大きく伸びるなと思ったきっかけです。ただ、当時は個人のクリエイターが発信できる市場が出来上がりつつも、事業継続可能な企業として成立し、広告主が安心して出稿できるメディアの存在がまだ不足していました。

—それが起業のきっかけになったということですね。起業されてからの2年半でこれほどまでに市場が大きくなってきているということは、動画広告によって動画メディアの収益性は今後も上がるのではないでしょうか。

確かに今はビジネスの中心として広告がありますが、動画メディアに限らずメディアが広告事業だけの一本足で企業を継続させていくには収益面でも難しいと思います。また、私たちのような女性向け動画メディアでは特に大きな関わりのある「小売」が変わってきています。いわゆる「ニューリテール」と呼ばれる潮流ですね。店舗の無人化や、電子決済などが進むことで、生活が変わりマーケティングも変わっていく。無人化の進行はすなわちユーザーデータのリアル蓄積の促進です。オンラインでの購買とオフラインの購買の境界線がどんどん曖昧になっていくのです。既にAmazonがECの世界からメディアに近づいてきていますが、この逆の流れ、メディアがECへ近づいていく流れもなければ生き残れないと感じます。

—もとから通販事業を行っていた企業は別として、店舗を中心に展開してきた小売企業は規模が大きい場合もあり、デジタル化の波がまだまだ遅れているイメージがありますが……

日本の小売業界はデジタル化が遅いと思われがちですよね。でももうユニクロなど先進的な企業は中国やアメリカの先行ビジネスを研究していて無人化や店舗内のデータ活用に取り組んでいます。デジタル業界の人が思っているよりニューリテールの波は早く到達すると思いますよ。2019年、2020年には変わっていくのではないかと。ちょうど同じ頃に電波の自由化がなされる見込みです。テレビ局もスマートフォン向けの同時配信ができるようになると、生活者のスマホ画面をいよいよみんなで取り合う時代です。質を高いものを届けているだけではダメで、情報提供から先の体験をどれだけサポートできるかが勝負です。既に私たちも挑戦を始めていて、KDDI社との資本提携でライブコマースの事業を開始します。

—合点がいきました。そうなると確かにメディアが提供する体験としてコマースは親和性が高いですね。

今、マーケティング業界全体として、「認知」「購買」の間を繋ぐ「興味関心・理解の促進」の機能を担えるものがないという課題があると思っています。テレビのCMも認知獲得、デジタルの動画広告も認知獲得。そしてデジタルはダイレクトな購買の獲得。かつては雑誌が強かった「生活者に商品のことを深く理解してもらう」ステップへの対応ができなくなって、認知と購買の両極端になってしまいました。実際、広告主である消費財メーカーの方も興味関心の獲得に注力しようとしています。認知の予算を減らしてでも、生活者に深く理解してもらえる施策を打たないと、認知はされているのに商品は売れない事態に陥ります。ブランドリフト(※1)がワードとしてもてはやされた時期もありますが、認知が上がりきったものへのアプローチを考える時期にきています。

—「DELISH KITCHEN」では、リアルイベントと連動したタイアップ企画も展開されていますね。それもやはり興味関心や理解の促進を目的としたキャンペーンなのでしょうか。

そうですね。リアルイベントで提供される料理のレシピを開発し、そのレシピ動画をSNSやアプリで紹介するといった施策も複数回実施しています。タイアップ型はデジタル広告の中では一本あたりのコストが高い部類ですが、それでもそこに力を入れることが最終的な伸びにつながると考えられます。ただ、タイアップだけやっていればいいということではなく、テレビも、店頭も、デジタルも同時に複合的に展開していく必要があります。まさしく統合マーケティングが必要な時代ですね。

(聞き手:事務局 堀)
※1 ブランドリフト ブランド名や商品・サービスの認知度や好感度などの向上

<プロフィール>
吉田 大成
株式会社エブリー
代表取締役
2005年4月ヤフー株式会社に入社。2006年10月、グリー株式会社に入社後、モバイルSNS事業、モバイルゲーム事業(釣り★スタ、探検ドリランドなど)、プラットフォーム事業を事業責任者として立ち上げに従事。2010年12月 同社執行役員、2012年9月 同社 取締役執行役員常務に就任し、日本事業全体を統括。2015年9月、株式会社エブリーを創業。

ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから

イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム  東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.archive.adtech-tokyo.com/ja/

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