ジャパンオリジナルは地方にこそ存在する
サン・アド 久保田 和昌 氏

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2018-04-18 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回は昨年のad:tech tokyo初登壇を経て本年はアドバイザリーボートとして参画されているサントリーホールディングス株式会社 顧問、株式会社サン・アド取締役会長の久保田和昌さんが2020年に向けて注目したい取り組みについて語ってくださいました。

-マス広告とデジタル広告を一貫して考えよう、という意識が広告・マーケティングの業界に行き渡った段階に来ていると感じますが久保田さんの実感としてはいかがでしょうか。

マス広告を戦略の出発地点にした「マス×デジタル」という掛け算も、もはや古くなって来ていて、デジタルを主にした「デジタル×マス」に逆転してきたと思います。そして、それすらも「デジタル×マス×リアル」に変わっているし、「テクノロジー×デジタル×マス×リアル」に進んで来ている。デジタルだけを強く意識する時代も過ぎてるんじゃないかな。AIやIoTだってもうコミュニケーションのツールになっているのだから、テクノロジーの分野も含めて俯瞰して考えていく時代ですよね。

—モノづくりもコミュニケーションツールということですか。

「COGY」という車いすを知っていますか。多くの人の行動範囲を広げる可能性を持っている、ペダルでこぐ車いすで、広告関連の賞などでも非常に注目されています。車いすというモノではありますが、幅広い人に提供ができるユニバーサルなものが世の中の課題を解決に役立ちダイバーシティ的に機能することを考えればコミュニケーションツールなのです。「誰かに喜びを感じていただける」ものやこと自体がもうコミュニケーションツール、クリエイティブのコンテンツなのだと捉えるべき時代に来たのです。

—そんな時代に必要なキーワードは「ダイバーシティ」と「サステナビリティ」である、と。

そうですね、実際に関わっているところでいうと、アドバタイザーズ協会にダイバーシティ推進委員会が作られ、東レの幼方さんに初代委員長をお願いする事になりました。最初の一歩としてまずは女性の力の活用を目指すことになっています。ad:tech tokyoには花王の鈴木愛子さんやライオンの小和田みどりさんといった第一線で活躍する論客たちがいるので、その分野は盛り上げられたらいいな。

それから、サステナビリティも重要なキーワードですよね。サントリーをはじめとする多くのメーカーがサステナビリティを経営の課題に盛り込んでいますが、広告やマーケティングの業界も、課題解決手段を提案していってほしいです。企業はそもそも事業を継続していかなければいけませんので、まず概念としては経営方針が根底にあってその上でマーケティングや広告宣伝があるというのが普通です。ただマーケティングやコミュニケーション分野の人達は経営方針を引っ張っていけるくらいに尖っていってもいいんじゃないでしょうか。自分たちの持っているサービスがスペシャリティなのだと自信を持っている人たちにこそ、機能の話ばかりをするのではなく、視座を高めて真正面から社会の課題解決を語ってくれることを期待します。

—2020年に向けて世界からの注目が集まって来ているなか、日本が日本らしくサステナビリティを実現するために必要なことはどんなことだとお考えでしょうか。久保田さんが注目されている分野を教えてください。

地方にこそジャパンオリジナルがあると思っています。そもそも日本は農耕民族であり、村を作り仲間と共に共同体を形成してきました。だから日本人の「おもいやり」「おもてなし」という考え方はそんな中から育まれたと思います。またそういう地域にこそ特有の伝統文化がありものものつくりの原点、日本の原点があると思います。日本の土地土地が持っている資産はグローバルにも通用すると思っています。地方創生はなかなか難しさがありますが、とても大切なものです。

例えば、私たちサンアドで青森県の特A米「晴天の霹靂」のブランディングを一手に引き受けさせていただいて以降、親しくさせていただいている青森の三村申吾知事の活動は、非常にダイナミックで興味深いんですよ。実際に見学にも行かせていただきました。高品質のコメを栽培するためには耕作する土地と良質な水が不可欠なので、1万キロメートルを超える水路を張り巡らせ、小さい田んぼをまとめて作業効率のいい大きな田んぼにするための大区画ほ場整備も実施されました。そこに人工衛星を活用した収穫タイミングが分かるシステムを導入されていました。里山を守ることこそが地方再生のキーでありに、それは第一次産業の定着であり、雇用も生み、都市への一極集中を避けることに繋がる。そんな活動が、日本が継続的に日本らしくあるための重要な役割を持つものなのだと改めて感じましたね。

他にも、東日本大震災の時に市井の台湾の人たちが自らのお金の中から寄付をしてくれた事に対して、感謝の気持ちをこめたメッセージを開発し、テレビスポットとして台湾で流した北海道テレビの樋泉実社長の取り組みも興味深いですよ。アジアの人達と顔が見える関係を作る、それこそがテレビが本来やるべきことで映像が出来る力であり、本当の交流につながるという発想のもと日々とりくんでこられた思いや姿勢がこのテレビスポットで、有事の時の日本人の感謝の気持ちがストレートに伝わったことになったようです。そのことは現地でも大きく取り上げられ話題になりました。視座が高く日本人として誇らしいですよね。何の話だろうと思われてしまうかもしれませんが、その内容こそがコンテンツであり、共感性が高いものになっていると思います。コンテンツ、もはやこの言葉の持つ響きでは説明しきれません。そういう取り組みの視点こそが、これからのコミュニケーション領域では更に重要性を増すと思います。

—ありがとうございました!
(聞き手:事務局 古市)


<プロフィール>
久保田 和昌
サントリーホールディングス株式会社 顧問
株式会社サン・アド 取締役会長

1977年サントリー入社
宣伝事業部媒体部長、RTD事業部企画部長を経て
2007年宣伝部長
2013年サントリーホールディングス執行役員・宣伝デザイン本部長兼宣伝部長、
2016年サントリーホールディングス顧問、株式会社サン・アド代表取締役会長兼社長
2017年4月より現職
2017年第36回東京広告協会白河忍賞特別功労賞受賞

ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから

イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム  東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.archive.adtech-tokyo.com/ja/

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