ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢36名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。
CRITEO株式会社国内セールス部門統括 コマーシャル・ディレクター小野良一氏の登場です。CRITEO株式会社といえば、リターゲティング広告の分野で国内市場を牽引してきた企業ですが、小野氏はクライアントに最近新たな提案をすることが多くなっているそう。果たしてその提案とは?
—Criteoのみなさんと言えば、日本のデジタル広告界に「リターゲティング広告」という新しい手法を商品をもって示した企業でいらっしゃいますよね。
2011年に日本オフィスをオープンし、2012年にYahoo!Japanと資本・業務提携して「リタゲ」広告の活用を推進してきました。面映ゆいですが、Criteoが日本にその市場を作り、商品を売ってきたリーディングカンパニーだよねと言っていただくことは多いです。
—コンバージョンに対する効率が非常によいリターゲティング広告は広告主からの評価も高いでしょうし、このデジタル広告予算が拡張していく時代においては順風満帆といったところでしょうか。
確かにリタゲ広告は一度サイトに訪れた人に対して、別のサイトで広告を見せるという手法なので、ターゲットはすでに商品やブランドに興味を持っている顕在層。とても費用対効果が良いので、予算配分をそこに寄せていこうとしてくださるクライアントは非常に多いです。ただ、目先のコンバージョンばかりに固執していると、潜在層へのリーチがおろそかになり、結果的に焼畑農業のようなビジネスになってしまう。いずれ刈り取ることのできる成果を目指してしっかりとタネを蒔いて育てていかないとビジネスが小さくなってしまうので、実はクライアントの皆さんには潜在層の拡張やブランディングの重要性をお伝えすることが多くなってきました。そして、もうひとつ新しい提案として、コンバージョン後のカスタマーをロイヤルカスタマーに育てていくためのソリューションも進め始めています。テストでいくつかのブランドの皆さんに試していただいた事例を徐々にカンファレンスなどで発信していくのでお楽しみに。
—それは是非、ad:tech tokyoの会場で伺いたいですね。さて、個人的に小野さんが注目している技術分野などはありますか。
2つありまして。1つ目はAI、もう1つはボイスです。
—ボイスとは?
スマートスピーカーやスマートフォンなど、話しかけて操作するものが増えてきましたよね。声を通じて生活者の行動などの情報が溜まっていくというのが非常に興味深いと思っています。どんどんデバイスが生活の中に入ってきている。AIも同じようにIoTで搭載されていけば、ユーザーの身に起きた日々の小さな体験がデータとして集まってくる、それを声を通じてコミュニケーションしていく。「自分のための情報だな」とユーザーが実感しやすくなっていくでしょうし、ブランドが行うコミュニケーションやマーケティングもどんどんパーソナルな方向に向かっていくでしょう。それが「できたらいいな」レベルの概念やテクノロジーの骨子だけでなくて、具体的な製品やサービスのアウトプットとしてもう生まれ始めているので顧客体験はガラリと変わっていきます。
—パーソナライズされたコミュニケーションは時には生活者に「気味が悪い」と思われてしまう可能性があるのではないでしょうか。
実際にそういう懸念はあると思います。そこはデータを使ってより良いカスタマーエクスペリエンスに改善させていくのが大事でしょう。まだまだ発展途上ですから、配信頻度であったり、タイミングであったり、ユーザーからのレスポンスのデータを蓄積していくことによって向上が見込まれると思います。自分がユーザーの立場の時に、広告に接したことによって「こんな素敵なものがあったんだ!」と違和感なく自分のための広告だと感じた経験ってあると思うのです。そういう経験を提供するにはひとりひとりに対して、どう広告を届けるのか、いつ配信するのか、発信する側が設計しなければいけない。それをデータを通じて理解していこう、というのがこれからですね。
—顧客体験を変えていく過程で重要な課題は何かありますか。
今、各ブランドは目先の顧客獲得に留まらないような、ブランドやサービスの認知と理解を深めてもらうための広告宣伝活動をしています。ユーザーが「これが欲しい」「あれが必要だ」と何かに直面した時に「そういえば」と思い出してもらえるのがひとつのゴールです。そのストーリーを作っていく時に重要なのがクリエイティブです。誰に見せるのか、というのは私たちの仕事ですが、どのように見せるのかもまた大きな仕事。ユーザーと接触するデバイスごとのUIやデザインが非常に重要で、クリエイティブがおかしかったらいくらターゲットに見せてもブランドのイメージが落ちてしまう。クライアントのみなさんと接してお仕事をしていく中で見えてきた課題はクリエイティブの重要性ですね。特に動画は市場としての伸びも大きいので、自分たちでも手間なく負荷なく素材を組み合わせて広告を自動生成するテクノロジーの開発をしていかなければいけないと思っています。
—最後に今年のad:tech tokyoで議論したいテーマがあれば教えてください。
色々な人がきていますからね、共通課題は語っていきたい。今ならやはりプライバシーの問題とブランドセーフティー。チャネルやデバイスをシームレスに繋げる技術と、GDPRへの対応も含めたプライバシーの保護をどう両立していくのかはどの立場の人でも気になるのではないでしょうか。そして、ブランドセーフティーはナショナルクライアントの皆さんのデジタルシフトが急加速していくにあたり、避けて通れない課題になってきている。このふたつは業界全体として取り組んでいく必要がありますね。
(聞き手:事務局 堀)
<プロフィール>
小野 良一
CRITEO株式会社
国内セールス部門統括 コマーシャル・ディレクター
早稲田大学卒業後、リクルート入社。
早稲田大学卒業後、リクルート入社。DoubleClick Japan、オーバーチュア、Become Japanなどを経て2017年にCriteo入社。インターネットビジネス黎明期より当業界で培った豊富な知見を活かし、現在はCriteoの国内セールス部門を統括。