「生産性をあげる」の真の意味とは?「効果」と「効率」その違い
Cueworks 西村 康朗 氏

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2018-10-01 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢36名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

—西村さんが昨年博報堂グループの社内ベンチャーで立ち上げた株式会社Cueworksは「サービス業向け現場管理チャット」を提供している企業ですが、「現場」というキーワードを入れているのには何か理由があるのでしょうか。

それはアプリを提供する企業ではなく、現場の改善をするソリューションを提供する企業だからです。私たちのいう「現場」とは抽象的な意味でなく実際に立って仕事をしている人たちがいる場所。ですので「立ってスマホで見る時は文字のサイズはこれぐらいじゃないと視認できない」といったことを含めて設計し、その上でイベントや販売店などの現場の改善を行っていきます。チャット上でやりとりされたものを単なるログとして残すのでなく、クライアントにとって有用なデータにして、場合によっては人員配置にも介入していく。そういうことをしている会社です。

—ビジネス用のチャットツールの種類も増え、取り入れる企業も増えていると思います。チャットの普及によって現場の環境というのは変わってきているのでしょうか。

チャットの導入が加速する理由のひとつに「働き方改革」の影響がありますよね。ただ、今の改革の方向性って働く時間を短くすることだけに向いてしまっていて、業務時間から溢れる仕事はやりませんとかいう企業も出てきている。でも、それだと働き方そのものは変わっていなくて、業務自体の凝縮はできていません。生産性をあげる、日本は生産性が悪いのでそこを変えていく必要がある。そのためにまずコミュニケーションそのものの環境を変えていきたいです。

—コミュニケーションを変えるとは、「チャットの短文でスピーディに」ということですか。

そうではなくて、コミュニケーションの構造そのものを変えていかなければなりません。日本の企業って「報告・連絡・相談」と「レポートライン」という言葉が好きですよね?しかし、いわゆる縦社会の構造だと、横のつながりでの知識や経験の共有はされない。大事なのは、連絡と相談を細かく行って、それを共有していくこと。特にこれからAIの進化によるシンギュラリティの到来が起きると、なくなっていく職業がいっぱいある。その時に残るのはやはり人が実際に立ち回って、お客さんと接するような場所の仕事です。だからそういう仕事の現場が働く人にとって幸せであるためには何が必要かというと、一緒に現場で動いてくれるチームリーダーとナレッジを共有できるチームではないでしょうか。命令をして後は報告を待っているだけのマネージャーではダメなのです。

—マネージャーでは現場が幸せにならない理由とは。

よく、「マネージャーが統率力を持てば組織が改善する」と思っている人がいます。しかし、今足りていないのは統率力ではなく目的の共有。目的がわからないのに、KPIだけが数字でいきなり設定されるから仕事の意味が組織に伝わらないことが多くなってはいないでしょうか。例えば、メーカーのサンプリングイベントのスタッフの人たちは「笑顔で挨拶を大きく!」と「体験まで進む人を●人獲得せよ」という指示だけをもらうことが多いのですが、それってどちらも何のためかわからない。そうではなくて、目的は商品の販売促進であって、そのためのステップを分解していくとイベントでの商品体験者を増やす、そしてスタッフはイベントに来た人が気持ちよく体験をするためのサービスを提供する…とやることが明確になっていくのです。目的が理解できれば、そのための個々人の工夫も生まれやすくなるし、共有できるコミュニケーションがあればさらにいい。実は「生産性をあげる」ということを「効率をあげる」というのは間違いだと思います。勘違いしている人が多いけれど、「効果をあげる」ことこそが仕事ですよね。効率なんか下がっても、効果が出ることが大事と思えば自ずと理解できる。優先すべきは効果なのです。

—確かに「生産性とは効率がいいこと」と考えている人は多そうですが、おっしゃる通り効果が出なければ効率が良くても仕事の成果は上がらないですね。では、ad:tech tokyoの参加した人が自身の仕事に「効果」を出すために必要なことがあれば教えてください。

レポーターにならないでほしいです。会社の経費で参加している人は会社に戻って報告会をする義務でもあるのか、セッションに出席してもスライドを撮影したり、登壇者たちの発言をメモすることばかりに集中してしまいがちです。でも、本当に持ち帰ってほしいのはメモや写真ではなく、「その場で考えた」という経験。セッションで取り上げられた事例や登壇者の発言に対して、「違うんじゃないか?」「そうは思わない」と疑問を抱くとか自分なりに解釈していくことをもっと積極的に行ってほしい。そのためにはセッションプログラムを見て、あらかじめ参加者が自分で考えることも必要だし、登壇者やモデレーターももっとお互いの意見をぶつけ合っていければいい。情報を入れることと考えることを同時にするのは人間そうそうできないから、ぜひ先ずは思考をしてもらいたいですね。
(聞き手:事務局 堀)


<プロフィール>
西村 康朗
株式会社Cueworks CEO
1962年 兵庫県姫路市生まれ
1986年 株式会社オリコム SPプランナー
1990年 株式会社博報堂 SPプランナー、ディレクター
2001年 グローバルMDセンター プロデューサー
2005年 関西支社 ディレクター、統合プロモーション部長、クリエイティブ・ソリューション局長代理
2017年 社内起業にてCueworks設立、現職

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