広告を嫌われ者にしないために、今デジタル業界が考えるべきこと
The Trade Desk, Inc. 新谷 哲也 氏

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2018-09-18 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢36名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回はThe Trade Desk, Inc. の新谷哲也氏が登場。ニューヨーク、サンフランシスコといった海外のアドテックへの参加経験も豊富な新谷氏に今年のad:tech tokyoで語りたいテーマを伺いました。

昨年のアドバイザリーボードメンバーインタビューでは人材育成についての問題提起を行っていただいていました。今年、新谷さんが感じている業界の動きは何かありますか。

今年に限らず去年以前からデジタル広告の世界では話題になっていた「アドフラウド」「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」といった広告に関する信頼問題について解決に向けた動きがまだ遅いなと感じています。広告主はもちろん気にはしているけれど、ブランドセーフティやビューアビリティの問題をクリアするような出稿の仕方というのは現状コストが割高になってしまう。コンバージョンやCPAの効率化を求めていく今までの出稿の考え方とはマッチしないので、先送りになってしまったり、メディアや広告会社側の意識が追いついていなかったりして、なかなかうまくいっていませんね。1社だけではできないことも多いので業界全体として変われるかどうか、時間がかかるかもしれないけれどやり遂げないといけない。達成できるかどうかがこれからの分岐点になると思います。

—広告に対する信頼性の問題がなかなか解決しないのはなぜでしょうか。

Webへの出稿って実はとても雑誌や新聞など紙媒体への出稿スタイルに近いってご存知でしたか。「視聴者の目に映ったかどうか」で出た・出ないを判断するテレビと違って、紙媒体の場合は「刷ったからには出た」という考え方です。それと同じようにWebも「見られたかどうかはわかんないけど出ました」という課金形態がベースですよね。今、徐々に動画広告市場が広がってきたことによって、「見た・見ない」が重視されるようになってきたのでそのあたりも変わっていくとは思いますが。

その「刷ったからには出た」という感覚の先に、「アドネットワークに出稿したけれど露出メディアはどこかは感知できない」という状況が起きているのではないでしょうか。特に今は予算を組むときに、「まずSNSにいくら使って…」という配分の話ばかりがされていて、「facebookにはこのクリエイティブでこういう人をターゲットにこの機能を持たせて、LINEは別のクリエイティブでこの役割を持たせて…」といったメディアプランニングが疎かになりがちです。アロケーションと運用技術ばかりを競い合うような状況で、メディアインサイトがないので、結果としてプレミアムメディアにお金が回らなくなっています。

—プレミアムメディアにお金が行かないのはSNSの台頭が要因なのでしょうか。

いえ、今はスマートフォンにおける広告体験が非常に悪いのが要因です。「あなた自身がユーザーとしていい広告体験してる?」と聞かれていい返事ができる人はきっと少ない。アダルト系の広告もプレミアムメディアに露出するし、逆にグローバルブランドの主力商品の広告がコンプライアンス上好ましくないサイトに露出してしまう。この状態ではブランドセーフティやアドフラウドの問題は解決しないですよね。なんで漫画村の問題が起きちゃったんだろうって。だからこれをしっかり分断していく。サイト埋め尽くすアダルトバナーや誤タップを招くような配置から脱して、そういう広告からお金を得ない、悪質なサイトにお金を流さない。スマホアプリの人気トップが広告ブロックアプリだということにもっと業界全体は危機感を抱かないと、いつまでも広告は嫌われたままになってしまいます。そこはもうテクノロジーの問題ではなく、健全な成長や品質課題をしっかり受け止めて対処する環境や機運を作っていきたいですね。「みんな考えてる?」と問いたいです。

—ビジネス市場としての健全化を推進していくなかでテクノロジーの役割とは何でしょうか。

テクノロジーといえば「プログラマティック」がキーワードになるでしょうか。今回のad:tech tokyoでも「プログラマティック広告の最新状況 ―あなたは積極派か保守派か」というセッションをモデレートします。90分の長いセッションなので熱い議論はそこでのお楽しみとしておきますが、少なくとも伝えたいのはデータを活用するということはバラバラになっているDMPやサードパーティデータを俯瞰してみた上で組み合わせをプランニングしていくことが重要だということですね。DSPなどの単体のサービスの機能を語るのではなく、データを活用していくための上流過程を構築できるような人やサービスが求めらてくると思います。アドネットワークの買い付けもプログラマティックバイイングだと勘違いしている人も多い状況なので、それを提供することはなかなか難しいですけど。だからこそビジネスチャンスです。

(聞き手:事務局 堀)


<プロフィール>
新谷 哲也
The Trade Desk Japan株式会社
Country Manager, Japan
The Trade Deskのカントリーマネージャーとして日本市場における同社プラットフォームのチャネル開発とサポートをリード。これまでビジネス企画・開発、メディア企画・開発、第三者配信など黎明期から様々なビジネスの立ち上げを担当。特に、インターネット広告ビジネス関連では、広告プランニングから企業戦略立案・投資まで幅広い経験がある。現職以前は電通 デジタル・ビジネス局に所属、2014年7月より現職。

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