AIの活用で、マーケティングはもっと楽しくなる
イー・エージェンシー 野口 竜司 氏

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2018-09-14 BY 田崎亮子

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢36名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回は株式会社イー・エージェンシーの野口竜司氏が登場。2015年からad:techにスピーカーやモデレーターとして登場し、今年からアドバイザリーボードメンバーとなった野口氏に、ビッグデータやAIの活用によってマーケティングはどのように変わっていくのかを伺いました。

—まず、野口さんは普段どのような仕事に携わっているのかをお聞かください。

「ビッグデータの統合」と「AI/機械学習の活用」という、二つのテーマに取り組んでいます。今はどの企業も消費者に関するさまざまなデータを所有していますが、ばらばらに点在していることがとても多い。これを統合することによって初めて、消費者の動きを横断的に正しく把握でき、マーケターが分析に活用することができます。そのお手伝いをするのが「ビッグデータの統合」です。

初めは、人間であるマーケター様に向けてビッグデータ統合の推進をしていたのですが、実はこのデータがAI/機械学習とも相性が良く、そのまま活用できるため「AI/機械学習の活用」にも拡張していきました。実はビッグデータ統合を本気のレベルで進めていくと、そのデータ群というのは、人間だけで取り扱えるデータ種類・データ量ではなくなることがあるんです。大量のデータを、ムラなく高い精度で打ち返せるのがAI/機械学習。なので、いっそ統合後ビッグデータは機械に託したほうがよいのではと考え、「ビッグデータ活用の人から機会への世代交代」を推進しています。

―その際に、何か方針として掲げていることはありますか?

私自身が文系出身ということもあり、「全ての文系マーケターにAIを」をモットーに掲げています。プログラマーやエンジニアでない「文系マーケター」に向けた書籍や講演は多くはありません。なので、文系マーケターの皆さんがAIを身近に感じられるようにするにはどうすればよいか、これを個人的なテーマとして追いかけています。

最近は、AIが予測するモデルを作るコストも下がり、またそのモデルも非常によく当たるようになりました。例えばEコマースサイトで、この人は一カ月後に買うか、あるいは買わないかというのを80%超という精度で当てられる。整備されてきたビッグデータ環境のおかげで、行動の先読みが行いやすくなってきているのです。

―予測される消費者側として見ると、ちょっと怖い気もしますね。

一見そう聞こえるかもしれませんね。ただ、ひとりひとりのサイトのユーザー操作を、実際に人間が完全に張り付いて3カ月くらい観察していたら(こんなことは物理的にできませんが 笑)、人間が予測しても大体当たると思うのです。「この人、買いたいという気持ちがもう無くなっているな」とか、じぃっと行動を集中して観察していると、おおよそ分かりますよね。でも顧客全てに対して、またすべての時間においてそれを行うのは物理的に不可能なので、AIに任せる。人間が人間を観察する際に着目しているような行動や特徴を託してあげれば、忠実にムラなく再現できるのがAI/機械学習なのです。

―文系マーケターがもっとAIを身近に感じられるようにしたいと先ほど伺いましたが、何が野口さんを突き動かしているのですか?

日本でもAI活用への感度が高い方が増えてきているものの、まだまだ浸透しきったとはいえません。一方で米国や中国では、今ある技術を使いきってやるぞという熱量が凄まじい。日本のマーケターにも、AIには何ができて何ができないか、自社のビジネスにどのようなチャンスをもたらすのかということを、実践的な経験を積みながら身近に考えられる環境を整えていきたいのです。これまでのマーケティングでは、結果としての過去のデータを切り取り考察・活用するのがデータ分析の主流だったと思うのですが、AIを活用することで消費者の行動が未来にわたって先読みできるわけですから、マーケティングはもっと楽しくなるはずです。

そのためには、ベースとなるAIの基礎学があった方が、AIネイティブの発想ができると思うのです。AIにも認識系、予測系、会話系、実行系と、それぞれに得意分野があります。さらには人間できる仕事を代行してもらうのか、あるいは人間にはできないことを任せるのかで、関わり方を分類できます。得意分野と関わり方を掛け合わせればAIソリューションを整理でき、「自分たちのビジネスには、認識系の代行型が活用できるのでは」と絞り込める。このようなAIの基礎を押さえた人がマーケティング界で増え、「日本はAIネイティブ性が高いよね」という評価が出てきたら本当に嬉しいですね。

―野口さんが最近、注目しているテクノロジーはありますか?

まず、グーグルのEdge TPU(Tensor Processing Unit)です。これはAI/機械学習に特化したプロセッサなのですが、米国の1セント硬貨(直径19mm)の1/4ほどの大きさなのです。AIによる推論を動かすには、一昔前だと大掛かりな筐体でないと無理だったのに、このEdge TPUがあれば手元でどこでも実行できるようになる。このサイズ感の変化にに衝撃を受けました。

また、声による操作技術「VUI(Voice User Interface)」も、またたく間に普及するのではないでしょうか。VUIはよくスマートスピーカーという単語でひとくくりにされがちですが、スピーカーの形をしたスマート機器以外にも、イヤホン内蔵型だったり、自動車を操作したり、機器形状はなんでもよいのですが、とにかく音声で操作するといったものも含まれます。iPadだって、声で操作できますよね?これまでのようにGUI(指やマウスによる操作)から、声による操作に大きく利用率がシフトした時、顧客エクスペリエンスは大きく変化し、企業側の対応すべき内容も変わってくると思います。このあたりの話は私がモデレーターを担当するad:tech tokyo2018「B-2 “顧客接点”が変わる!スマートスピーカー/音声UIがもたらすデジタル社会の進化」でもお話をいたします。

どちらも人々の行動や日常生活に食い込んでくるテクノロジートレンドなので、今とても注目しています。

—最後に、ad:techに期待することを教えてください。

私も含めてですが、もっと経営に近い話をしていかなくては、と思っています。私の場合は、先端テクノロジーと経営の間に何があるのか、どうすればAIやビッグデータなどといった先端テクノロジーをうまく使いきって本業の経営に寄与できるようになるのか、ということを話題にしていかなければと考えています。経営にいかに寄与するかについては、どのad:tech tokyoのセッションでも最終的には関連してくることなのではないでしょうか。

また、私は学生時代からずっとベンチャー企業で働いてきたので、大企業という巨大な組織の中でデジタルの最前線にいらっしゃる方は本当に凄いと思っています。その方たちがどんどんCクラス(CEO、CFOなどといった役職)に就いていくのを、陰ながら見守っていきたい。ad:techが、参加されている方々を経営の中枢に送り込んでいく。そのような場になっていけばと願っています。

(聞き手:事務局 堀)

<プロフィール>
野口 竜司
株式会社イー・エージェンシー 取締役
(株)イー・エージェンシー でGoogle アナリティクス360 を中心とした行動データやCRMデータ/店舗データ等のデータ統合を推進。さらには統合データを使ったAI(ディープラーニング)による予測モデルの開発や、データ駆動型組織づくりの支援を実施。アドテック東京2015/2016/2017に登壇。アドテック東京2018のアドバイザリーボードに就任。 ■主な著書 – 『A/Bテストの教科書』 – 『達人に学ぶGoogleアナリティクス実践講座』 – 『Live! アクセス解析&ウェブ改善講座』』 – 『Webマーケティング成功の法則75』 – 『インフォメーションアーキテクトの教科書』 など

<ライター:田崎亮子>
専門誌出版社で環境・CSR・広告・広報の雑誌編集に携わった後、制作会社で広報誌、CSRレポート、会社案内、学校案内などの編集を担当。2016年からフリーランスとして、広告・マーケティングなどの領域の、編集・執筆・翻訳に携わる。

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