マーケティングのデジタル化は加速するか?これまでの10年とこれからの10年
博報堂 安藤 元博 氏

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2018-09-14 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢36名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

—安藤さんにはボードメンバーとして3~4年ほどad:tech tokyoにご参加いただいていますね。それ以前、5年ほど前まではスピーカーとしてもご登壇くださっていました。ad:techが日本上陸してからの10年間で安藤さんがお感じになる「語られるテーマの変化」はありますか。

ad:techが10年前に東京で始まった時、「デジタルが導く新しいマーケティングがある」ということ自体がとても大きなテーマだと感じていました。新しい技術やフィールドが生まれてくる話自体がとても魅力的だった。誤解を恐れずにいうと、その頃ぼくが感じていたような意味での新しさはもうなかなか生まれないんじゃないかと思う。技術的な進化や業界的なトレンドはもちろんあるけど、当時の衝撃に比べたら小さく感じる。論点自体が新しかったし、テクノロジーも新しかったし、大量のデジタルデータをマーケティングに使うというのも新しかった。でも今はそれらのテーマは全体が大きくなって、いい意味で一般化した。論点は本質的には変わらないけれど、あの当時「いずれこうなりますね」と語られていたことが「いよいよこうなっていますね、いますぐしなければなりませんね」という実現の段階にきているのは誰の目にも明らかでしょう。それが変化でしょうか。

—ad:techでは具体的な事例の共有も盛んですが、「実現の段階」としてデジタルのマーケティングが活用できているものはあるでしょうか。

事例として規模が小さかったり、マーケティング全体の視野からは狭い領域の話にとどまっていたり、まだ実験段階のものも多いとは感じますね。EC業界など事業自体がデジタルで完結している領域はともかく、経済や社会の広い視点で見た時にはまだ一部というのが冷静な見方だとは思います。ただ、「マーケティングの進化」はともかくとしても、ビジネス自体がものすごい勢いでデジタル化している。だから、10年前はごく一部の人に限られていたかもしれないけど、今は企業の経営レベルにまで問題意識としては到達している。次は10年もかからずマーケティングそのものが完全にデジタル化すると思います。そしてそれを推進するのが、マーケティング全体を取り扱い、非デジタルの領域も含めて生業としている総合広告会社の役目だとも思っています。

—その「広い意味でのマーケティング」とは何を指すでしょうか。

狭い意味でのデジタル業界のなかには、マーケティングという言葉を「レスポンスをあげるための手段」くらいの意味で使う人もいるようですが、マーケティングとはなにかを端的に表現するならば「価値創造」です。送り手と受け手の間にあらたな価値を生み出して行く、それがマーケティングという行為です。「どこにどのような広告を打つか」は大事なことですが、手段のひとつでしかありません。送り手が提供する商品のあるべき姿や、生活者にとってのその価値を探って行く、そこに生活をとりまくあらゆる場面に生成するデータを用いていくことがマーケティング全体のデジタル化ですね。そうしたことの実現のために、2014年に博報堂DYグループとして「生活者DMP」の構築を開始しました。以後、4年あまりにわたって開発し活用してきた多くのソリューション群を今年、「生活者DATA WORKS」という形で体系化して発表しました。10年前には「できるといいよね」といっていたことが、いよいよ実現のフェーズにはいっています。

—様々な人がマーケティング全体のデジタル化構想を語りながらも、実現への道のりが厳しかったのはどのような理由があるのでしょうか。技術がすぐには追いつかなかったからでしょうか。

いくつかありますが、そのためのデータが整備されていなかったのも大きいでしょう。例えば、「DMP(Data Management Platform)」という言葉であらわされるプラットフォームは多くの場合、オンライン上での行動最適化の意味合いで使われているようですが、それはデータ構成自体がそのようになっていたからです。しかし、「概念としてのDMP」というものを考えるとするとそれは本来、マーケティング全体のプラットフォームになり得るものだと、5年前から思っていました。より一歩進んでマーケティング全体をカバーするためには世の中にある様々なビッグデータを結びつけなければいけません。ただ、構想はあってもなかなかうまくいかなかったのはデータの安全性の問題があったからですね。官民ともにビッグデータの活用はずっと目指していますが、やはりそこがネックです。私たちは今年、独自の特許技術を活用した「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム設立準備室」を設置して、安全性を担保しながらデータを統合活用し、生活者の全体像を見てマーケティングを動かして行くための取り組みを行っています。

—気になるキーワードはありますか。

本来の意味でのクリエイティビティが重要だと思っています。デジタル広告の世界で「バナーのクリエイティブが」と使われるような「制作物」という意味ではなく、人がルーティンでは思いつかないことを跳躍して表現し課題を突破できるもの。マーケティング全体がデータをベースにして展開できるように進化した時に、そこに新しいクリエイティビティが発現できるかどうか。データをクリエイティブに見せるという意味においては実はもう素晴らしい事例がいくつかあります。それとは別の意味で、データ化されたマーケティングそのものとクリエイティビティの掛け算でどんなものが生み出されるのかが楽しみだし、自分たちも力をいれて取り組みたいと思っています。そこにまだ見ぬ、わくわくするようなクリエイティブが生まれなければいけないと思います。

—最後に今年のad:tech tokyoで話題にしたいテーマがあれば教えてください。

この10年の間に何が変わって、何が変わらなかったのか、これから何が必要なのか、振り返りをしてみるのも良いのではないでしょうか。人の入れ替わりも激しい業界なので、なかなかその通史を知っている人は少ないでしょうし、私自身も10年以上前のデジタル業界のことはリアルには知りません。しかし、それ以前も含めて有意な歴史というものがあるのですから、それを尊重し、失敗も成功も温故知新の姿勢で受け止めていけるといいですね。

(聞き手:事務局 堀)

<プロフィール>
安藤 元博
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ
執行役員
1988年博報堂入社。以来、主にマーケティングセクションに在籍し、数多くの企業の事業/商品開発、統合コミュニケーション開発、グローバルブランディングに従事。現在、博報堂DYグループの“生活者データ・ドリブン”マーケティングの中核推進組織を率いる。ACC(グランプリ)、Asian Marketing Effectiveness(Best Integrated Marketing Campaign)他受賞多数。ACCマーケティングエフェクティブネス/カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル等の審査員を歴任。著書『マーケティング立国ニッポンへ―デジタル時代、再生のカギはCMO機能』『デジタルで変わる広報コミュニケーション基礎』(共著)。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了(社会情報学)。社会情報大学院大学客員教授。

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