ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。
—まず、喜早さんのお仕事の担当領域についてお聞かせいただけますか。
今は「ビジネス・ディベロップメント&アクティベーション局プリンシパル事業室」に所属しています。名刺の部署名だけでは何をやっているのかわかりにくいですよね。簡単にお話しすると「広告以外でビジネスの手段を考える」チームです。プリンシパル事業といい、電通もお金や人材を入れるなど、自ら事業主体として参画し、ベンチャー企業など様々なパートナーの皆様と一緒にスパンの長いビジネスを作るのが目標です。
—新しいビジネスであれば手がけるのは必ずしもデジタル関連のビジネスというわけでもないのでしょうか。
もちろんデジタルに限定しているわけではありませんが、そうはいってももう今のベンチャーでデジタルに絡みのないものはほぼないですね。社内でも特殊な仕事をしている集団かもしれません。ミッションは「広告以外で儲ける」ことですから。コンサルティング会社のように役務提供をしてフィーでお金をいただくこともあれば、ビジネスに関わる権利をもらうこともあり、利益の上げ方は様々です。
—広告会社の皆さんがコンサルタントのような動きをし始める一方で、コンサルティング会社の広告業界への進出も目覚ましいですよね。
それはやはりマーケティング全体がデジタライゼーションして来たのが一番の理由でしょう。10年前はマーケティング業務全般のうち広告、それこそアド・テクノロジーが新しいものとして注目されていましたが、今はマーケティングのあらゆるポイントでデータが分析、活用されるので、広告部分のデジタル化だけでは、クライアントの課題に対応できなくなっています。データドリブンマーケティング、と言ってしまえば一言で終わりですが。ad:tech tokyoで議論される内容がアド・テクノロジー一辺倒でなくマーケティング全体を考えるものになって来たのがその一つの証左ともいえるし、今年のカンヌで、IT系のコンサルティング会社の存在が大きくなって来たりしています。私たちにとって彼らはもちろん脅威ですが、クライアントのビジネスを俯瞰して見て来た会社が参入してくるのは当然の流れでしょう。
—その中で広告会社はどう活路を見出して行くのでしょうか。
「最適化の向こうに広告やマーケティングはどこへ行くのか」というテーマでしょうか。やはり今のデジタルマーケティングは精緻になればなるほど気持ち悪さを生んでしまっている。生活者が「追いかけられてるみたいで気持ち悪い」と感じるほどにリターゲティングするような広告はリジェクトされてしまう。効率化というのは広告を出す側の理論になってしまうので、受け取る人の気持ちをベースに考えていかなければと思います。そうでないと効率は上がるけど効果は出ない。ターゲットにリジェクトされない「効果」を求めるために、マーケティングの入口と出口はどれだけ自動化が進んだ世界になっても人がやる仕事して残るのではないでしょうか。
—マーケティングの入口と出口、とは。
「課題設定」という入口と最終的な「何を提供するか」という出口です。AIは急速な発展を遂げていますが、学習させるためには大量のデータが必要であり、そのデータを元にどの様に「学習」させるか?には、やはり「AIを使う人の力」が必要です。課題設定はデータが大量になっていくことである程度いいところまでAIに考えてもらえるのですが、「で、どうするんだっけ」と言う最終的なジャッジには、データと言う「過去からの判断」だけではなく、未来を見通して考える「人間の力」がどうしても必要になってくると思います。
—クライアントや広告会社の内部に変化はありますか。
クライアントからのご相談の幅が広くなって来ましたね。ずっとお話ししてきたように広告を取り巻く環境が変わってきたので、広告会社の役割も変わって来ました。例えばクリエイターもTVCMを作るだけでなく、デジタルも含めた全体の施策の中で導線設計をし、ビジネスとしてのゴールを考えられる、これまでの広告会社における人材の職能を超えた、ビジネス・デザインを出来る人材が求められています。 組織としてもその様な対応の出来るチームが日常的にクライアントさんと接触するチームにも求められていると思います。 常に新しいテクノロジーやビジネスにアンテナ高く興味を持つような、昔以上に好奇心の旺盛な人じゃないと成長しにくいかもしれませんね。
—では最後にad:tech tokyoに期待することを教えてください。
もっと日本全体を巻き込める産業振興のプラットフォームになってほしいです。なんとなく日本ってこのままだとジリ貧になりそうなイメージがありますが、やはり企業だけで何かやろうとしているのではもう追いつけなくなるのではと。フランスなどは国全体としてテクノロジーベンチャーに力を入れて、お金も出してという取り組みをしている。なかなか急に官民イベントにするのは難しいですが、テーマとして扱う範囲がアドテックからマーケティング全体論に広がってきたようにそこまで広がればいいですね。
(聞き手:事務局 堀)
<プロフィール>
喜早 冬比古
株式会社電通
ビジネス・ディベロップメント&アクティベーション局プリンシパル事業室
エクゼクティブ・プロジェクト・ディレクター
1982年4月に電通入社し、長らくストラテジック・プランナーとしてクライアントへ、コミュニケーション戦略、メディアプランニングサービス、ブランド戦略立案などの各種プランニングサービスを提供する業務に従事。
その後、プランニングサービスの武器づくりを行う開発部門の責任者として着任し、各種プランニング・メソッド、ツールの開発に従事。2008年の「コミュニケーション・デザインセンター(CDC)」の設立作業以降、デジタル・ソリューション・サービスを提供する部署の設立に多数関った。直近では2016年7月にデジタル・ソリューションを専門的に扱う「株式会社電通デジタル」のスピンオフ作業に関わった。現在は、ビジネス・ディベロップメント&アクティベーション局 エクゼクティブ・プロジェクト・ディレクターとして新規事業プロジェクトのマネジメントに関わっている。
1982年慶應義塾大学商学部卒、2004年法政大学大学院経営学研究科経営学専攻(MBA)修了
一般社団法人 日本広告業協会 懸賞論文委員会委員
一般社団法人 日本広告業協会 取引合理化委員会ビジョン小委員会副委員長
日本広告学会常任理事
日本マーケティングサイエンス学会理事