次のPRキーワードは「デザイン」!? AIでは発見不可能な人間の欲求とは
ベクトル 吉柳 さおり 氏

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2018-08-21 BY うえの みづき

ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。

今回ご登場いただいたベクトルグループ取締役副社長吉柳さおり氏は学生インターン時代にベクトルグループ設立に関わって以来、PR業界を牽引。SNSやオウンドメディアといった新しい発信手法や、AIなどの新技術の発達によって「PR」がどのように変化しているのか伺ってきました。

—ベクトルグループではベンチャーキャピタル事業を行っていらっしゃいますよね。PRとは事業として少し離れた分野の印象を受けますが、支援先の企業とはどのようなやり取りをしていらっしゃるんですか?

ファイナンスだけでなく、ブランディングを一緒に行っています。一般投資家にも成長性を感じてもらえるような企業になるためにはコーポレートブランディングが必要なんです。ロゴ、社名、ビジョン、事業、ブランディングのために認知向上の為のコミュニケーションだけでなく企業価値をあげるお手伝いをしています。

—それは確かにPR的な視点が効きそうですね。

もともとPRはマーケットを俯瞰して、競合企業と比較した上での強みを発信するのが本域です。AIやRPA(Robotic Process Automation、業務の自動化)といった事業ジャンルとしても新しい企業を支援することも多いので、そのカテゴリーでNO.1になるようなメジャーブランディングをしたりもします。おかげさまで、支援先企業のIPOは初値が売り出し価格を毎回超えています。もちろんIPO自体が目標ではないので、上場後の事業展開も含めてパートナーとして関わっていくのがやりがいがあります。

—吉柳さんは大学在学中に創業期のベクトル社に入社して以来、ずっとPRの第一線でご活躍されていますが、入社当初と現在の「PR」の変化はお感じになりますか。

一般的なPRの意味合いでもあるパブリシティ活動ももちろんやっていますが、領域が変わってきましたね。以前はメディアに取り上げてもらうための活動はメディアリレーションなどプッシュ型のアプローチが中心でしたが、今は企業のオウンドメディアをつくり、生活者とコンテンツを通じて接点をもつプル型コミュニケーションも増えてきました。さらにPRとSEOの視点でコンテンツを創ればSNSなどでオーガニックに拡散されていく環境が作れますし、ターゲティング広告でコンテンツを配信することもできる。生活者自身がSNSを通じてトレンドを生む時代なので、ブランドが直接生活者に接点をもちトレンドを作るチャンスも増えたんです。そうして盛り上がったものをメディアに取り上げてもらったりする。戦略の時系列も変わりましたし、PRでコンバージョンが測れる時代になったのも変化の大きなポイントだと思います。ブランドイメージの向上や、「広告換算値」などメディア露出を測る指標だけでなくて、セールス数まで追えるようになったのはやはりアドテクノロジーの進化のおかげ。

—技術の進歩によってPR業界に求められる人材像も変わってきますね。AIを活用した業務の効率化も進みそうです。

働き方改革として、業務の自動化を図ったりということは私たちも行なっています。確かに機械ができることはたくさんあるんですけど、人間にしかできないこともあります。欲求の研究ですね。国民性や歴史を背景にしたインサイトの発見とか日本人独特の感性を理解したインサイトを探し当てたり、生活者視点でモノを見たり、欲求を「発見する」のはテクノロジーだけでは全ては無理だと思うんです。テクノロジーでCPA単価をひたすら下げる戦略はもう限界に来ていますから、新たなインサイトやターゲットを発見してブランドと出会わせ見込み客を作っていくことが重要かと思っています。「何故このブランドは買われるのか?」その答えである欲求を発見できるのは人間の力ではないかと。社員にもその能力を伸ばすことを求めてますね。

—では、吉柳さんが個人的に興味を持っていることを教えてください。

最近、自分自身としてはデジタルに全く関係ない世界に興味があります。電波が繋がらない土地みたいに物理的にデジタルと離れるとかもそうですし、あるいは日本各地の食文化や器などリアルでしか体験できないものを求めるとかもそう。仕事でデジタルに触れまくっているから、個人の生活はそこに目がいきますね。デジタルマーケティングでは絶対に捕まらない自分の美的欲求を満たす。お醤油の蔵元に尋ねて行って、ストーリーを聞くなんていう体験とかが好きです。情報に溢れているからこそ一度シャットアウトして自分でルーツを探りたくなる、自分の軸となるような審美眼を養いたいと思っています。マーケティングも本当はきっとそうかもしれない。

—マーケティングを成功させるための要素を何か挙げるなら、吉柳さんは何を挙げますか。

今、いろいろなインフラ的なテクノロジーを開発しているなかで、情報を届ければいいわけではなく、また、PR主軸にマーケティングしてきたものとしては、ファクトをベースにした左脳的な価値を生み出すのに注力してきたのですが、「好き」という主観の要因を言語化することが最近重要だと感じています。日本人ってファクトやストーリーが好きな国民性だと思うんです、好きな理由をちゃんと言語化して人に伝えるのが好きなんです。でも、様々な商品がコモディティ化してますし、日本のブランドの商品力ってとてもすごいので機能面だけの差別化はもう難しいんです。ファクトを中心とした左脳的な価値だけでなく、利便性の先にある右脳的な「好き」を育てるためにはどうすればいいのか、マーケティングを考えた時にひとつはデザインの力が大きいと感じています。当たり前と言ってしまえば当たり前なんですけど。マーケティングがデジタル化していく今、デザインについて考えて、ad:tech tokyoでも議論したい。クリエイティブの話がだいぶ増えて来たので、ここからまた一歩深掘りできればと思います。

(聞き手:事務局 堀)

<プロフィール>
吉柳 さおり
ベクトルグループ 取締役副社長
大学在学中にPR会社ベクトルにアルバイトとして入社し創業に参画。2002年にベクトル取締役に就任。2004年にPR事業会社プラチナムを設立し代表取締役に就任。ベクトルグループはベンチャーから大企業まで、様々な企業のコミュニケーション課題を解決するための戦略PR、デジタルマーケティングなどの次世代型マーケティングメソッドを提供する総合PR会社。グループ39社、中国、インドネシアをはじめアジアに11拠点、2012年に東証マザーズ上場、2014年に東証一部上場

ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから

イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム  東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.archive.adtech-tokyo.com/ja/

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