ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。
今回ご登場いただいたのは凸版印刷株式会社メディア事業推進本部副本部長(兼)株式会社マピオン取締役の亀卦川篤氏。BtoB企業のイメージが強い印刷会社にて珍しい生活者向けのメディアサービスを率いる亀卦川氏に「生活に気づきを与え、動いてもらう情報」について伺ってきました。
—みなさんのメディアといえば、月間1000万人以上の主婦ユーザーが利用する電子チラシの「Shufoo!」ですね。在住地域のスーパーやドラッグストアのチラシ情報をユーザーが見るアプリとサービスですから、位置情報との関わりが非常に深そうです。やはり位置情報活用には力を入れていくのでしょうか。
そうですね、ビーコンやGPSは気になる技術です。それらによる生活者のリアルな買い物行動を把握することは「生活地域の情報メディア」として重要と考えています。今まで通信キャリアくらいしか取得できなかった精度の高い情報ですから、それ以外のプレイヤーがどのように取得して統合活用するのかにも興味があります。僕らも既に取り組みを始めていますが、個人情報保護の観点などからも自社だけで突っ走るわけにもいかない。それに、「Shufoo!」を利用してもらっている流通小売各社は使う技術がそれぞれ異なるケースも多い。なのでこちらの技術の押し付けではなくそれぞれにふさわしいものを提供し、裏側でインターネット地図の「マピオン」と連携して標準化と統合をしていくという俯瞰した設計が必要になってきます。
—アプリを使用している中心ユーザーは主婦の方だと思いますが、スマートフォンを使って買い物をすること自体はもうかなり馴染んでいる方々ですよね。
月間1000万以上のユーザーがインターネットで買い物情報を見るというところだけ切り取るとECと似たような消費行動をイメージするかもしれませんが全く異なります。ECサイトで何か買い物をする時って自ら「○○を買おう」と「物欲」を起点に閲覧をしますよね。いわばストック型のコンテンツ情報。でも、スーパーやドラッグストアへの買い物は「買い物に行かなくちゃ生活に困る」という「必然の買い物欲」による頻度の高い消費行動で、「夕飯作らなきゃ!」が起点になるようなもの。新聞と一緒に届くチラシの束をパラパラめくってもらうことで「今日はキャベツが安い」という気づきを提供するのと同じように、アプリを通じて主婦の方に、毎日鮮度の高いフロー型のコンテンツ情報を届けるわけです。チラシという「広告」をわざわざ見に来てくれているユーザーって貴重だと思いませんか?
—確かに毎日ゼロから献立を考えるのは大変なので、良いものをオススメしてもらえるならそれに乗っかってしまいたいです。
その時に果たしてターゲティングをすることが正解なのか?が重要なポイントになってくると思います。ハレの日の情報はたくさん生活者に提供されていますし、ピンポイントでセグメントされています。一方でセグメントされていない情報接点によって新たな気付きをどうやって作るかがアドテクノロジーの分野では今後必要な要素になるでしょう。僕らの価値は何が買いたいのかは決まってないけど買い物に行かなければいけない人たちとの接点であり、日常生活の一部になっている。なので、一人ひとりのユーザーとその生活地域を基点としたスモールなマス、パーソナライズを掛け合わせた情報提供と気付きを与えて行きたいですね。この複数の情報接点からリアルな行動データを集めて行くことが私たちのDMP(データマネジメントプラットフォーム)でも武器になっていくと考えています。もちろん「画像による電子チラシ」からの脱却は目指しますが、チラシが果たしてきた地域生活者視点の行動喚起は今後も進化させていきます。
—現状の取引先としては先ほどのお話の通り流通小売各社が多いかと思いますがメーカー企業からの引き合いも増えているのでしょうか。
ブランド各社からの出広は増えてきました。商品広告を出すだけではなく、どのお店に行けば商品が買えるのかまで情報をつなげて全国1000万人の主婦に細かくリーチが可能で、新商品発売やキャンペーン告知、流通タイアップ等の認知拡大と地域の販促を両立出来ることに魅力を感じていただいています。地域ごとにクリエイティブを変えてみたり、企業サイトの会員情報とShufoo!のID情報を繋ぎ、効果の測定と顧客を見える化する施策を実際に行なっています。やはり、ブランドのデジタル広告予算が割合として増えてきているなかで、ブランディング、プロモーション、ダイレクトの境目がデジタルマーケティングの伸張に応じて境目が無くなって来ていると実感します。ブランド価値を上げることが第一目的の企画だったとしても、担当者の方は上層部に「それでいくら商品は売れたの?」と聞かれる時代ですから。私たちはこのブランディングと販促の境界を独自のメディアを介して壊して行きたいと考えています。
—境界を超えるような議論がad:tech tokyoでなされると良いですね。
店舗を持っている流通小売業界の方の参加がもっと増えると良いですね。生活者に一番距離の近い業界であり、「ITに特化した店舗を作る」という発表している小売の企業もあるくらいですから。それにネットスーパーのような日常生活用品のEC化に成功している企業はまだ少ないので、日常生活におけるデジタルとリアルのシームレスな購買行動の連動(オムニチャネル)は議論していきたい。そして、実は僕らのサービスが一番の価値を見出してもらえるのが災害時なんです。ECの物流が機能しない時にやはり重要なのはその地域の店舗の情報なんです。そういうリアルな生活圏の情報の必要性がまだまだIT業界では語られていないと思います。派手さがないからでしょうか。でも、デジタルに閉じたオムニチャネルやO2O施策だけなく、人々の生活商圏やローカルな特性の部分を含めたデジタルとリアルを繋ぐ議論が今年はなされることを期待します。
<プロフィール>
亀卦川 篤
凸版印刷株式会社
メディア事業推進本部 副本部長(兼)株式会社マピオン 取締役
1991年凸版印刷入社。大手自動車会社の営業を担当後、新事業開発や企画営業に携わる。2006年(株)博報堂との合弁会社設立に参画し、取締役に就任。2010年4月より凸版に帰任し、当本部で事業戦略を担当後、現職。営業から企画まで数々の新規プロジェクトに従事。2015年6月より現在、日本初のインターネット地図情報サービス「Mapion」を運営する(株)マピオンの取締役も兼任。
ad:tech tokyo 2018の詳細はこちらから
イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム 東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.archive.adtech-tokyo.com/ja/